戸松有葉の ショートショート1001作を目指す旅

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1052 燃える水を入手せよ

 山奥の村に住むその少年は、幼少期から冒険者になる夢を持っていた。そして十二歳の誕生日を迎えたこの日、決意を胸に、長老の元へと赴いた。
「ふむ。やはり来たか」
「はい。要求も理解されていますよね」
 村には掟があった。外の世界に移住してはならない――。
 村の人々には外の人間とは異なる特徴があり、恐れられると同時に差別され、またそうした差別は村の祟りによって避けようがないという。
 少年の目指す冒険者は、外の世界を飛び回るものだ。掟に反する。
 少年は頑固で、一度言い出すと聞かない性格。しかしながら掟を破ろうとはしない真面目さもあった。事実、「十二歳までは一歩も村を出てはならない」との掟は守ってきた。
 掟に反していいのは、長老が特別に許可した場合のみ。その許可を貰いに長老の元へ訪れたというわけだ。
「掟を破ればどうなるか、わかっておるのか」
「村の労働力が確保できず、村の存続にかかわってきます」
 少年は即答した。掟の理由が嘘であることなど、承知ということだ。
 長老も、少年がわかっていることを察していた。また、少年の決意が揺るがないことも以前から知っていた。だから少年に何を告げるかも考えてあった。
「条件を出す。五十日以内に『燃える水』を入手し、その源泉を突き止め、村に還元せよ。そうすればお前の好きなように生きてよい」
 掟は守る少年だ。条件が示されたのならそれに従う。
「わかりました。必ず入手してみせます!」

 初めて村の外に出た少年。金は多く持たせてもらえた。「金がないから行き詰った」という言い訳をさせないためだろうか、しかし冒険者を目指す相手には甘いような、よくわからない。
 やがて少年は山を抜け、最も近くの街に辿り着いた。この街へは大人が行き来しているのだが……違和感がある。
 聞いていた話より遥かに賑やかだ。活気に満ちている。村の大人たちは街のことを子供に話したくなかったのだろうか、憧れを抱かせないために。ありそうな話だ。
 人で溢れかえっている中には冒険者らしき人も見かけた。この周辺に冒険者の仕事があるのか。少年の事前知識にはなかったが、先のように憧れを抱かせないため情報管理されていた可能性を疑う。
 さて、目的は『燃える水』の入手だ。何のことかはさっぱりわからない。水はむしろ火を消すもの。比喩なのか本当にあるのか。
 考えてもわからないことを考えていると、目に入ったのは酒場だった。冒険者風の者たちも大勢入っていく。ここなら情報もありそうだ。
 酒場に十二歳が入っていいかは知らないが、ともかく入ってみると、街中以上に喧騒が激しい。大繁盛で、まだ昼間なのに大勢が飲んで騒いでいた。
 しらふなのはマスターくらいか。マスターに尋ねてみようと少年は人々の間を無理に抜けて行く。
(酒臭いなあ)
 村にも酒はある。が、粗末なものだからか、大人が喜ぶのは街から持ち帰った酒だ。おそらくここで飲まれているのは、後者の酒だろう。
(ん? 燃える……水?)
 本での知識だが、酒――アルコールは燃える。アルコール度数の高い酒なら、それは燃える水と呼べるのではないか。
 閃いた少年はすぐに確信した。酒こそが答えなのだと。
 ようやくマスターの元へ行き着くと、大声で尋ねてみる。
「酒は燃えますか?」
「おうよ! 男は酒で燃えるぜ!」
「いや、物理的に燃えるかを訊いて……。とにかく、一番アルコール度数の高い酒をください! お金ならあります!」
「バカ言っちゃいけねえよ。子供に酒は売れねえ」
 容易に答えを得たと思ったが、それだけでは入手に至らないようだ。
 その後も、大人に代わりに買って貰えばいいからと金を渡したら騙し取られたり、酒自体は手に入っても条件である「源泉を突き止め村に還元――製法を知る」道のりが険しかったり、色々とあった。
 それでも少年は五十日以内に成し、村へと帰還した。

 長老は狼狽えていた。少年は勝ったと思う。しかし、
「酒では駄目だ」
 きっぱりと告げられる。
「なっ、他に『燃える水』なんてないでしょう! そうか、最初から存在しないものを求めて諦めさせるのが目的で……」
「いいや、そうではない。お前も冒険者を目指すなら、情報を正しく得て正解を見付けねばならん。どの道お前ではやっていけんかっただろう。街の周辺に油田があるとの話があっての、人が多く集まっていたのだ。もしも油田を掘り当てることができたなら、掟を破ってもいいくらいの利益だからと、条件にした」

(了)

 

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