戸松有葉の ショートショート1001作を目指す旅

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897 天候を操る能力ッ!

 

 日常が壊れたあの日から、少年は学校からの帰宅さえすんなりさせてもらえない。

 今も人気のない路上で、敵の刺客が道を塞いでいた。

「お前、すげえ異能得たそうだが、使いこなせなきゃ意味ねえよなあ」

 少年は能力に目覚めてから日が浅い。刺客のほうはそうではないようだ。

 刺客は、ずっとポケットに入れていた両手を出し、掌を上にして、その姿勢のまま固まった。

「何の真似だ」

「今から見せてやるよ、俺のチカラ、天候を操る能力を!」

「なにぃ!」

 驚愕の少年。まるで神のような能力だ。昔の人間ならきっと神だと崇めただろう。

 刺客は能力発動での気合というように、「はああああ!」と声も出していた。姿勢は先ほどのままだ。

 ……隙だらけだった。少年の異能とか関係なく普通にぶん殴れば倒せそうだった。あるいは逃げてしまっても成功しそうだった。

 だが異能バトルにおいて、そんな野暮なことはできない。能力に目覚めたばかりの少年でもそれくらいはわかる。

 何が起こるのかじっくり待っていると、ある異変に気付いた。

 刺客のほうから、熱を感じる。というより、刺客自身の顔が真っ赤で汗だくだ。端的にいえば、暑そうである。

「もしかして、熱を起こしているのか?」

「ははは、今頃気づいたか」

「いやいや、その台詞は、気づくのが遅くて手遅れになってから言うものだろ」

 天候を操る能力と言っていた。そしてこの熱。

 もしやと少年は思い当たる。

「上昇気流発生させて、雨でも降らせるのか?」

「くくく、今頃気づいたか」

「いやだから、その台詞は(以下略)」

 雨乞いの儀式で、確かに熱で雨を呼ぶものがある。それを、道具を使わずにできるのが、刺客の能力のようだ。

 本人とても苦しそうだが。道具でも用意したほうが良さそうだが。時間かかり過ぎているが。雨も確実に降るわけではないが。

 しかしやはり、ぶん殴って倒すのも逃げてしまうのも野暮なので、敵が真価を発揮するまで待ってあげる少年。それに、野暮だからというだけでもない。

 やがて、雨は本当に降ってきた。待った甲斐があった。

 勝ち誇ったような表情の刺客に対し、少年は一言告げる。

「雨だからどうした」

「…………っ!」

 刺客は、ガッツポーズを作りかけていた手を引っ込めて、押し黙る。返す言葉がないことは明白だ。

「それじゃ、こっちからも行くか」

 敵の能力は見てあげたので、遠慮なく倒すこともできる。

 と、

「お前は何もわかっちゃいねえな! 俺は雨を降らせたかったわけじゃねえ!」

 さっきまでの態度から嘘はバレバレだったが、話は聞いてあげることにする。

 刺客は人差し指を立て、天高く突き出した。

「この雲はただの雨雲じゃない!」

 少年はハッとする。

 この指のポーズ、そしてただの雨雲ではない雲。これは、雷という強力な攻撃ができる異能だ!

 即座に少年は、地面に膝を付き、そして頭も下げた。参りましたというポーズだ。顔も地面すれすれほどで、雨水を啜るかのよう。そこまで頭を下げている。

「くはは! 今更降参しても遅い! 死ね!」

 

 雷は、高いところに、落ちやすい。

 

 刺客の指先に落ち、じき雲も消え失せ、少年はゆっくり立ち上がった。

「頼むから俺の異能使わせてくれる敵現れないかな」  

 少年は律儀に異能バトルのお約束を守ってあげているのに、未だ敵へ披露したことはなかった。

 

(了)

 

 

 この作は最終巻後なので、電子書籍をどうするかは未定