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戸松有葉の ショートショート1001作を目指す旅

ショートショートとAmazon電子書籍販売・配布の活動をしています。

941 異世界バトルを新宿で

 

 

 バルクの剣を退けた魔王ザンギは、高笑いする。

「七勇者も報われぬな! お前のような出来損ないに力を託したとは。アハハ!」

「やはり俺では駄目なのか」

 七人の勇者がその命を絞り出して力を吹き込んだ聖剣。しかし、勇者の家系でもなければ特別な才能もないバルクが扱っても、魔王ザンギには通用しなかった。

「違うわ」地に伏していたエルザがバルクの嘆きを否定する。「勇者たちはあなただから託したの。まだ戦える勇者もいたのに、勇者の血を引く私や兄さんがいたのに、どうしてあなたが聖剣を託されたと思っているの」

 しかし現に、聖剣は通じなかった。その回答を、エルザ同様倒れているアークが提示する。

「魔王の邪気が予想以上に高まり、力が及んでいないだけだ」

「アーク、何のつもりだ。私を裏切る気か」

 アークは魔王軍四天王に上り詰めた男。そしてエルザの兄にして勇者の血を引く者だ。

「裏切る? 裏切ったのはお前だ、ザンギ! 貴様には大義などなかった!」

 その時、バルクの持つ聖剣の輝きが増した。

「俺も勇者の血を引く者、足しにはなる」

 聖剣の輝きは更に増した。今度はエルザだ。

「死に損ないが!」

 魔王ザンギからエルザに攻撃魔法が放たれた。しかし頑強な肉体で盾になる者がいた。

「ドエフ!」

 バルクとは相容れず、最後まで仲間になれなかった男だ。

「エルザとアークは俺に任せて、てめえはさっさと魔王を倒せ。心配するな、俺はてめえより強えからな」

「ああ、頼んだぞ、親友よ!」

 七勇者とその血を引く兄妹の力が聖剣を輝かせ、そしてバルクとドエフ、すべての人々の想いが、バルクの心を輝かせた。

「行くぞ、ザンギ! うおおお!」

「小賢しいわ! かあああ!」

 バルクと魔王の力がぶつかり合う。衝撃で、周囲は光とも闇ともつかぬ混沌と化し――

 

 気が付くと、新宿に来ていた。異世界の、日本の、新宿に。

「あっれぇえ」バルクは剣を引く。

「むむ」ザンギも爪を引く。

 バルクは剣を腕力では支えきれず、地面に付けてしまう。聖剣の輝きとかそんなものも消えていた。

「なあザンギ、聖剣の力失ったみたいなんだが。精霊の加護も失って、俺は完全凡人になったようなんだが」

「うむ。実は私もそうだ。爪も深爪クラスに短いし邪気も全く出せない。おそらく顔も、顔色が悪い程度になっているのではないか?」

「うん、なってる。顔色悪いおっさんにしか見えない」

 新宿に来た時点で、不思議パワーは全部失われたようだ。

「なんでこんなところ来たんだ」

「両者の力が強過ぎて次元を曲げた的な?」

「なるほど、わからんが、わかる気はする。しかしそうなると」

「帰れないな。お前も私も同じ力出せないのだから、同じ手段では帰れない」

 二人の間にしばし沈黙が流れる。

 新宿は人でいっぱいだ。そこへ現れた、中世西洋風の騎士および黒マントで気色悪い格好をした、二名。目立たないわけがない。人々は無関心を装っているが、完全に無視はできないといった視線だ。

「君たちちょっと」

 声をかけてきたのは警官だ。怪しさ全開なので職質せざるを得ない。

「外国から観光? 日本語わかる?」

「えっと、日本語とは何かわかりませんが、何故かわかります」

 バルクは変な受け答えになっていたが、外国人にしては上手いと受け止められ、続けられる。

「本場の日本でコスプレしたいのもわかるけど、場所考えて。ここはそういう場所じゃないから。路上でもできる場所あるから、そっちでやってね」

「はあ」

 理解はできていないので、曖昧な返事。すると警官は、

「おや、もしかして剣?」

「あ、はい。これは七勇者の力が込められた聖剣で――」

「いやそんな設定説明はいいから。なんだコスプレ道具かー、武器だったら銃刀法違反だから目に留まって」

 紛れもない武器だが見逃された。警官は注意だけで去ってしまう。

「なあ魔王。いいや、邪気失ってると魔王って肩書もおかしいか。ザンギ、決着どうする?」

「ここまで来て無しってわけにはいかんだろう」

「俺もそう思う。やる?」

「やるか」

 バルクは重い剣を振り回し、ザンギのほうはただの顔色悪いおっさんであり攻撃防御手段も持たず、勝負はバルクの圧勝に終わった。重い剣での攻撃であるため、グロい惨殺死体だ。

 今度は別の警官たちが駆け付けてくる。

「剣か。なら銃より警棒で……警棒も要らなそうだが」

 なにせバルクは、先の戦闘で息を切らしている上、重い剣に腕をプルプルとさせているのだから。

 複数の警官にあっさり取り押さえられる。

「ややこしい事態になったが、これで世界は救った……ぞ? でも待て。こっちに来た時点で魔王の脅威はなくなっているから、倒さなくてもよかったのか?」

 

(了)

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