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戸松有葉の ショートショート1001作を目指す旅

ショートショートとAmazon電子書籍販売・配布の活動をしています。

943 自警団

ノーマル(シリーズ外)

 正義を気取っている彼らこそ、彼らに殺される対象の悪ではないか――。
 その「自警団」が人々に認識されてから、こうした批判・皮肉・非難はあった。テレビや新聞のような一方通行メディアだけでなく、インターネットでの個人からも同様に指摘されている。
 初めての事件は、新宿で起こった。人の集まる場所であり、テロの標的になりやすい場所だ。ただしこの事件は、あくまで特定の個人団体を狙っていたため、無差別に市民を攻撃するタイプのテロではなかった。また、政府への要求といったものもないため、その意味でもテロリズムとは異なっている。
 ただし政治的意味がないわけでもない。
 彼ら自警団の声明には政治的意図が強く含まれていた。
 日本は古代から、民を守る意識が弱い。民から税は取るがその税によって民を守る義務を果たそうとはしない。貴族が領民を守るため先頭に立って戦うといった考えはないのである。かといって近代的に軍を整備するわけでもなかった。世界中探してもこのようなおかしな意識の国は存在しない。
 現実的にはこんな国など成立しないのだから、必然崩壊を迎える。古代から中世に移り武士政権が事実上統治するようになったのはこのためだ。
 しかしながら、たとえ武士政権が統治しても時が経つとやはり日本特有の意識が目立つようになり、崩壊を迎える。
 この繰り返しは、近代以降や戦後でさえ、継がれているのかもしれない。
 国は国民を守らない。良識ある者が一部にいようと、法を整備するため頑張ろうと、日本人の意識にこの妙な思想が残り続ける限り、悲劇は訪れ続ける。
 自警団を自称する組織は、つまりは「国がやってくれないから自分たちで自分たちを守る」という行為に至っている。警察などの行政が怠慢や癒着によって動かない、法では対応できていない、そうした悪を司法抜きに私刑で裁く。 
 以前から過激派右翼などに見られた動きではある。しかし犯人がそうではないと捜査で判明している。警察が把握している団体に該当するところなどなく、むしろ右翼は被害に遭っていることと警察との関係性から警備対象でしかなかった。
 自警団には公式サイトがあった。彼らは自らの正義を実行するばかりではなく、殺すべき(裁くべき)相手を募っていたのだ。
 もちろん殺害依頼などすれば犯罪だが、自警団自称公式サイトに事実関係や対象の名前を記すだけなら、罪には問われない。こぞって「殺して欲しい人物・団体」が書き込まれた。
 有名人や、いわゆるブラック企業、そして役所が書かれることが多かったが、個人的なものも数多くある。無数にある。自分では殺人などできないから代わりに殺して欲しいというわけだ。
 警察が犯人特定とサイト閉鎖、ターゲットになりそうな者の警護に追われる中、サイト発の事件は起こってしまった。
 殺されたのは、サイトへの書き込みをしていた者だった。
 自警団は声明をすぐさま出す。
 こうした連中は、まさに裁かれない悪であり、我々が裁きを下すしかなかった――。
 人々は正直なところ、この自警団に好意的だった。だからこそサイトにこぞって書き込んでいた。表向きに支持を表明しなくても、悪が裁かれるのは気持ちいいものだ。
 しかしサイトの一件で国民感情は一変する。確かに殺して欲しい者も殺されているが、対象が自分たちに向くかもしれないと悟ったからだ。
 そうなれば、後は自警団への非難である。
 当初から指摘されていた、「正義を気取っている彼らこそ、彼らに殺される対象の悪だ」という点。識者によるいい子発言ではなく、人々の本心として、これが叫ばれるようになった。
 しかし自警団は、この展開も読んでいたかのように、次の行動に移した。
 初めて事件を起こした新宿で、彼らは出頭したのである。
 彼らは捕まっていなかったため、一見「裁かれない悪」かのようだったが、そうではない。明確な犯罪をしているのだから、捕まれば通常通り裁かれる立場だ。
 そんなことは最初からわかりきっていたこと。つまり、自警団の殺害対象からは外れる。

(了)

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