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戸松有葉の ショートショート1001作を目指す旅

ショートショートとAmazon電子書籍販売・配布の活動をしています。

945 徒歩移動に疑問を抱いた勇者

勇者魔王シリーズ

 魔王を討とうという勇者でも、初めの内は、レベルも低く所持金や装備も心許ないものだ。
 移動手段も、馬車や船などまだ先の話。魔法も然り。当分は徒歩での移動となる。
 ……のだが、ある時勇者は気付いてしまった。
「自転車使ったほうが便利じゃね?」
 モンスターの徘徊するダンジョンや険しい道はまだしも、安全の確保された街中であれば問題ない。
 買い物や情報収集、街中だけで済むお使いイベントは、徒歩では時間がかかってイライラする。ダッシュすればマシになるが、ダッシュしているはずなのに遅いといったシヨウも存在するのだ。自転車があれば時間短縮でき、体力も使わずに済むではないか。
 そうして勇者は、自転車を利用しだした。
 街中を疾走する勇者。新鮮な光景であり、何より格好いい。若者を中心に「自分も」と自転車が流行ることになった。
 こうなるとお定まりの苦言「最近の若者は」である。長老を初めとした大人たちは、若者をなじった。別に仕事をさぼっているわけではないし、さぼる者がいてもそいつは自転車がなくともさぼる。古今東西、いや世界が異なっていたとしても、自分の時代にはなかった新しいものを否定し、それによって自己を肯定したがる心理は働くのだ。
 そして若者が大人の言うことに耳を貸さず反発するのも決まりきったことである。
 自転車のおかげで、街は不穏な空気に包まれていった。モンスターもいないというのに。
 勇者が戸惑っていると、大人と若者の双方から、話があると訴えられた。双方わかっているのだ、この件は勇者を味方に付けたほうが勝ちであると。
 大人側は「徒歩でないと世界観に合わない」と街のインフラとの整合性を持ち出してきた。街は自転車前提で道路が舗装されていないため、危ないという。
 若者側は反論する。街中は荒れてもいない。別に危なくないし、実際勇者も危険な目に遭っていない、と。
 すると今度は、「世界観に合わない」と、同じ言葉を違う意味で告げてきた。勇者が自転車乗るのは感覚的におかしい、雰囲気が壊れる、と価値観を持ち出してきた。
 価値観の違いでしかないから、若者もそこを突く。議論は議論にならず、平行線を辿った。
(困ったな。でも)
 間に挟まれた勇者は面倒だったが、両者を立てる案を提示した。
 自転車は自転車でも、勇者用の自転車に改造すればよいのではということだった。
 たとえ荒れた地でも危険性は少なく、勇者っぽいデザインを採用して雰囲気を壊さず、さらにはモンスターを回避して進め、モンスターにぶつかって攻撃もできるようにすれば、いかにも勇者用の自転車だ。
 この案に若者らは大賛成で、さっそく協力を申し出て、大人たちは渋々だが認めざるを得ないと折れた。
 両者を立てた案のつもりだったが、若者寄りの結論になってしまった。
(変にこじれなければいいけど)

 勇者は巧みに自転車を操り、スキルも開発してモンスターを翻弄、順調に攻略を進めていたのだが、そこへ長老の使いが怒鳴り込むように乗り込んできた。
「今すぐやめてください! それ、小さな子供が真似をして危ないんですよ! 中にはモンスターに挑む子もいて……」
「マジで?」
 小さな子供、を持ち出されては勇者も弱い。
 子供らは普段から、勇者ごっこを剣や魔法で行なっており、充分危ないのだが、そんな指摘は今通じそうもない。
 仕方なく勇者は従い、自転車を封印。元の不便な徒歩移動に戻ることになった。
 ダッシュ遅い! シヨウだから仕方ない!
 もうさっさと進めて、船とか入手してしまおうと、街を離れて旅を急いだ。

 ある時勇者は例の街に寄った。
 長老が自転車を自分が開発して勇者に与えた、と嘯いていた。他の街にも売りさばいて大儲けしているようだ。
 魔王は、搾取こそするが、そのためにも自由な商売を推奨している。勇者は搾取を悪としていたのだが、これを機に「商売は平和を乱す悪」として魔王討伐後禁止する方針を固めた。

(了)

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