読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

戸松有葉の ショートショート1001作を目指す旅

ショートショートとAmazon電子書籍販売・配布の活動をしています。

948 登下校は安全第一で

 

 その小学校では自転車での登下校が許されていた。もちろん児童の安全は第一に考えられている。ヘルメットの着用は義務付けられており、一%の違反もないほど守られていた。
 しかしある時、児童が転倒により頭部を怪我した。幸い命に別状はなかったが重傷であり、ヘルメットを着用していたにも関わらずそうであったことで、安全対策が不充分だとの声が上がった。
 これを機に、学校、文部科学省教育委員会、保護者、近隣住人、神社関係者、教育評論家、医者、犯罪心理学者、交通の専門家、自転車の専門家、材質の専門家、国防の専門家、風水の専門家、などなど様々な人々が結集し、全力で子供たちの安全な自転車登下校を議論することになった――。

「ヘルメットはこれ以上なく強化しました。しかしヘルメットだけでは不足です」

 人間の体は脆い。ましてや子供だ。全身を鎧で固めねばならないとの結論に達する。
 重さは半端ではなく、構造的にも子供には――大人でも――激しく動きにくいため、転倒件数は劇的に増えた。それでもこの装備なら怪我をしない。安全である。

「交差点での確認を徹底させましょう」

 右見て左見て、もう一度右見て……では不足だ。もっと注意深く周囲を見る必要がある。
 右見て左見て、もう一度右見て、次は上見て――落下物があるかもしれない、たとえ建物の傍でなくとも竜巻で舞い上げられた物が落下してくることはあり得るし、彗星が分裂して落下してくることがあることも有名だ――、下も見て――道路の陥没はあり得るのだからその兆候を見出すスキルは子供にも必須、その他凍結や地割れ、地震が実は起きていないか、など確認することは多い――、斜め後方をフェイント交えながら迅速に見て――不審者に尾行されているかもしれない、真後ろにわかりやすく居たりはしないため不意打ちで確認する必要がある――、空間全般を見渡し――冥界からの誘いはどこからやってくるかわからない、神隠しに遭ってしまわないよう霊感も高めつつ心眼も駆使して警戒だ――、これらをトータル二秒以内に行なう。

「子供が自身の安全を守るのも大事ですが、大人は子供を守る責任があります」

 通学路では、登下校の時間を中心に、保護者らが目立つ服を着用しつつ旗と笛を持ち、見守ることになった。
 子供たちは全身鎧で多様な危機に警戒しながら、大人たちへ元気に挨拶をする。
 例の交差点での動作が出来ていなければ笛を吹かれるし、他にもスピードの出し過ぎがあれば笛を吹かれ、その度にきちんと止まって大人からの注意を受ける。
 最近の子供は礼儀正しいのだ。
 そうした子供たちを見送ると、大人たちは眉を潜めて話し合うのだった。
「まだわかってはいないようですね」
「やはり自分で気付けというのは無理なのでしょう。従順でいい子な分、自分では考えないと言いますか」
「ええ。私たちのような、怪しい格好で訳のわからないことを言う大人など、無視して自転車で逃げてしまわないと危ないというのに、子供たちは素直過ぎる」

(了)

広告を非表示にする