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戸松有葉の ショートショート1001作を目指す旅

ショートショートとAmazon電子書籍販売・配布の活動をしています。

949 白い理由

ノーマル(シリーズ外)



 その男子高校生は、女子生徒たちに羨ましがられていた。
 肌が白かったからだ。
 しかも男子は野外競技の運動部員であり、逆に黒くてもおかしくない、黒いのが自然だ。だから色白であることに理由があるのではないかと、女子たちは思うのだった。
(って言われてもな。体質だとしか)
 しかし女子たちも必死だ。いつも日焼けに気を付けて生活しているのに、それでもこの男子より白くない。傍目には日焼けにすら気を付けているとは思えないのに白いのは、羨ましいと共に、秘訣を知りたくなる。
(そういう体質だってのは、何度か言ったんだよな)
 幼少から色白だったので、肌について答えたことは幾度もある。ただ、それで納得してくれるかといえば、別だ。具体的にこれこれこういう性質によって、と医学的に説明できるならいいが、「体質だ」だけでは相手は納得しない。勉強や運動ができる理由を「才能だ」の一言で片付けても納得してくれないのと同じようなものである。
 そこでやむなく、男子はこう答えることにした。
「牛乳好きだからじゃね?」
 自分でもどうかと思う冗談であったが――。

「牛乳ってさ、イチゴミルクでもいいの?」
「さあ? それだと赤み帯びるんじゃねーの。無難に牛乳にしておけよ」
 このような会話が、世界中で飛び交っている。世間話はもちろん、インターネット上でも、更にはテレビの情報番組でさえ、扱われている。

『蚕や鮭は、食べ物で色が変わることがよく知られており――』『白人以外でも後天的に肌が白く変色する現象はあるわけですが――』『牛乳を摂取する際は、紫外線に弱くなっているので、外出時は特に注意を――』

 もはや「牛乳が人間の肌を白くする」は自明のものとして受け入れられていた。
 かつて一部の国々で流行った血液型性格診断よりも、純粋な情報の流通である。
 血液型のものは、結局のところ、金儲けに繋がっていた。だから科学的・医学的・統計的根拠がないといくら強調されても、情報を出したがる者がいなくなることはなかった。
 しかし牛乳色白説は、そうした書物や番組とは無関係にも信じられている。アジア系女性を中心に、牛乳が大量消費されていた。
 こうなると「牛乳を売りたいから」との陰謀論も出てくるわけだが、牛乳の供給が追い付かない状態であり、さして儲かってはおらず、そんなことは事前に予想できたことだ。工業製品のように増やそうと思ってすぐ増やせるものではない。乳製品全体の高騰も招き、そして乳製品は人間の食生活になくてはならないものであるため、世界に混乱さえ与えていた。

「やばいよなあ、これ」
 最初にこの嘘を吐いた、今は大学も卒業し企業に勤める、元男子高校生。罪悪感とは微妙に違う何かで、長い間悩んでいる。
 就職活動もしていない頃に、一応、「俺が吐いた嘘、冗談だ」と周囲やインターネットで告白したこともある。だが完全に無駄だった。同じように「自分が最初に言った(最初に発見した)」とする者など世界中に溢れているからだ。
 悪質なデマの場合、逮捕もされるらしいが、これは特定の個人や企業に被害が出ているとは言い難い。そもそも犯人が特定されないから捕まりようがない。いや、それ以前に、貶めるような悪質なデマでもなかった。
 悩んだところで、事態を収束させる手立てなど思い浮かばない。だから彼は、悩んだ末、諦めることにした。
 そうして、いつものように牛乳を飲んだ。牛乳色白論は嘘だが、牛乳好きは本当だ。高騰しているため非常に困り、昔のようにガブガブは飲めず、少しずつ大切に飲んでいる。
「はあ」
 一息吐く。が、
「……なんか味変だな。絶対変だ。まさかこれ、傷んで――」

 牛乳の傍で倒れている彼が発見された時、彼は冷たくなっており、そして元々色白だったところからより白くなっていた。現場を見た発見者らは、口々に言う。
「やはり牛乳のせいでこんなに白く……」

(了)

 

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