読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

戸松有葉の ショートショート1001作を目指す旅

ショートショートとAmazon電子書籍販売・配布の活動をしています。

951 トラックに轢かれれば異世界へ

ノーマル(シリーズ外)

 

「大型トラックに轢かれれば、死ぬ!」
 彼は力説している。
 僕も死亡の可能性は同意でき、反論もないので、落ち着いて黙っていられた。しかし彼が続けた言葉には多少驚きを覚えた。
「そうすれば異世界に行けることを、俺自身で証明してみせる!」
「君のバカさ加減には同情を禁じ得ないけど、それで、そんな話を僕に聞かせてどうしてほしいんだい」
「俺が異世界行ってしまうと、こっちで俺が証言できない。だからお前が見ていてくれないと困る」
 見ていたところで異世界に行けたかなどわからない。彼のバカさ加減には同情を禁じ得ないけど、見ているだけでいいなら楽なものなので、了承することにした。
 彼の言う異世界とは、剣と魔法のファンタジー世界のことだ。大抵中世ヨーロッパをベースにしており、エルフやドラゴンがいたり、美少女がいたりする。美少女に関しては必ず存在する。
 トラックに轢かれて死ぬと、転生なり転移なりでそうした冒険世界に行くことができるという都市伝説が広まっていた。
 都市伝説、つまりデマだ。こんな訳のわからないことは起こりえないし、万が一起きていたとしても、誰も証明できないのだから、わからないとしか言えない。
 だというのに、彼は真に受けてやろうとするばかりか、証明までしようという。
 さて、大型トラックに轢かれて死ぬわけだが、前準備も要る。そうすることで、より確実に異世界行きが叶うらしい。
 具体的には、
「大学辞めてきたぞ」
 退学だ。彼のバカさ加減には同情を禁じ得ないけど、死ぬことが前提なのだから、どうでもよいことなのも確かだった。
 いわゆるニートになった彼は、次のステップとして引き籠り生活に入る。なにも、俗世を断ち瞑想するためではない。いかにも自堕落な生活といった印象になるよう、ネットゲームも用意し、コーラやポテチも完備して、他のことは何もしない。
 一日二日そうしたところでは、ちょっとした遊びに過ぎない。だから彼はしっかりヒキニート(引き籠り+ニート)となるため、延々その暮らしをした。
 僕は付き合いなどしないものの、彼がその暮らしをしていることは時々足を運んで確認していた。
 当初はトラックに轢かれるところを見るだけでいいから楽だと思っていたのに、意外と面倒だ。早く轢かれて欲しい。
 そうして三ヵ月が過ぎた頃、彼がついに決行すると伝えてきた。
 部屋を訪れてみると……見事に汚い。
 ただし彼自身は健康的であったことから、この汚さは「俺は自堕落な生活をしていた」と表現するため故意に作られたものと推測できる。本当に自堕落だと決行前に不幸が起きるかもしれない。彼のバカさ加減には同情を禁じ得ないけど、考えてはいるようだ。
 部屋を片付けはしないものの、僕は気になって、散らかっている物を確認した。近現代の政治経済、農耕や戦争の歴史、法律、など様々な書物がある。どうやらこの三ヵ月間、勉強していたようだ。大学時代の勉強よりも必死に。
 異世界は中世風であることが多い。そこにこの世界の現代知識を持ち込めばどうなるか。平凡な大学生でも、世紀の大改革者として、世の中を発展させることもできる。あるいは、自分の陣営だけを強くして、世界の覇者にもなれる。
 せっかく勉強したのなら、行けもしない異世界での活用より現代日本での活用を考えたほうが良い……。彼のバカさ加減には同情を禁じ得ないけど、彼が三ヵ月必死に勉強したところで通じるはずもないので、夢を見られる分いいのかもしれない。
 いよいよ決行の時が来た。
「この辺りは大型トラックが速度出しているからな、突然飛び出されたら轢かないわけがない」
 彼は自信満々だ。
 それにしても何故死に方がトラックなのか。運転手が気の毒でならない。下手をすれば、罪に問われるだけで済まず、ハンドルを無理に切って本人も死にかねない。この都市伝説考えた人はトラック運転手に訴えられてもいいのではないだろうか。
 などと想いに耽っていると、トラックが高速でやって来た。彼は迷いを見せず飛び込み、当然というべきか、死亡したようだ。
 僕は目撃者として、警察に証言する。
「大学も辞めて人生も詰んでいましたから、自殺でしょう。もう少し相談に乗っていれば……。他界してから言っても仕方ないですが」
 ……あ。
 彼が異世界に行けたかなど僕は証言できないと思っていたら、きちんと証言していた。彼は他界した――こことは異なる世界へ行った、と。
 彼のバカさ加減には同情を禁じ得ないけど、素直に尊敬した。

(了)

 

無職転生 ~異世界行ったら本気だす~  (1) (MFブックス)

無職転生 ~異世界行ったら本気だす~ (1) (MFブックス)

 

 

広告を非表示にする