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戸松有葉の ショートショート1001作を目指す旅

ショートショートとAmazon電子書籍販売・配布の活動をしています。

953 彼は悪くない

 サッカーでは、時間内に決着がつかなかった場合、PK戦で強引にでも勝敗を決める。強引だ。これまでの競技とは離れていると言っても過言ではないミニゲームで、勝敗が決まってしまうのだから。PK戦は心理戦やゴールキーパーの腕が影響するとしても、トータルで考えれば、「運」の一言に尽きる。普通であればゴールは決まり、キッカーが失敗するまで続ける――いつか誰かは失敗する――という、残酷なゲーム。古くから問題視され、またやむを得ないと諦められていることだ。
 しかしPK――ペナルティキックは、勝敗を決めるためのPK戦だけではない。
 自陣ペナルティエリアで反則を犯して与えられる罰則。点が高確率で取られるのだから、反則は避けねばならないし、攻める側からすればうまく反則を誘いたいものとなる。
 こちらのPKは、PK戦とは異なり、「運」では済まない。
 反則の選手は、ジャッジへの不服やPK覚悟の場面を除けば、技術に劣るとして、責められる。
 反則を勝ち取ったほうは、大げさにはできないが、喜ぶし味方に讃えられる。
 ゴールキーパーは先のPK戦同様、普通はゴールなのだから、止めればファインプレイであり、入れられても何も思われない。
 では、高確率で点が奪える、キッカーは……?

 男子サッカー最大の国際大会。日本代表は、この試合勝てば初の決勝進出という、偉業に挑んでいた。
 そしてその機会は訪れた。
 延長後半アディショナルタイムも残りわずかというところで、ペナルティキックを得たのだ。スタジアムが、日本中が、世界中が、沸き立つ。かつては世界上位など遠い存在だった日本が、今まさに、決勝戦への切符を手にしようとしている。
 PKが決まれば、あるいは外れてボールが外へ出るかクリアされれば、即試合終了の笛は吹かれるだろう。
 日本代表の命運を託されたのは、若きストライカーだった。キャプテンや、同じストライカーでも長年代表を背負ってきた者ではなく、今大会目覚ましい活躍を見せた一人の若者。海外クラブ所属者の多い代表選手の中で、日本のリーグ所属者でもある。
 この大会は彼のおかげで飛躍できた、ならば彼にすべてを託そう……そうした雰囲気になっていたのだ。
 今大会終始そうだったように、冷静沈着な様子で、ボールをセットする。この大事な場面でも崩れない屈強な精神力を持つ証だ。
 皆の視線が、祈りが、彼に集中する。
 そして結果は……

 あるチームメイトは熱く告げた。
「お前は悪くない! もしお前を責める奴がいたら、俺がぶん殴ってやる!」
 他のチームメイトたちも同じようなものだ。涙を流しながら肩を優しく叩く者、今はそっとしておこうと何も言わずに去る者。
 実は味方だけではない。対戦国選手も、エキサイトしていたにも関わらず、試合後は彼への気遣いが見られた。
 PKはゴール枠すら外し、試合終了、PK戦へともつれ込んだ。彼も蹴る一員だ。汚名返上なるだろうというシュートは、またもやゴール枠を外して、日本は敗れ去った。
 試合は当然、日本へ向けて実況・解説が行われており、また各マスコミも結果を報じており、彼を悪く言う者はいなかった。いや、そうではない。「彼は悪くない」としきりに強調していた。
 その後、数週間経っても、手紙やネット書き込みが溢れた。中傷もあったが、チームメイトやマスコミ同様、励ましの言葉が多い。
「あいつは悪くねーよ!」「戦犯などと言っている人は何もわかっていない人だけですから、気になさらないでください」「君がいなきゃ、日本はここまで来られなかった」
 大会で活躍した彼には、海外有力クラブも目を付けている。そしてやはり、例の失敗について、「彼は悪くない」「素晴らしいプレイヤーとの評価に変わりはない」としてくるのだった。
 何度も繰り返し、様々な人が、「君は悪くない」と庇い、励ましてくる……。
「俺、最初から自分が悪いなんて思ってなかったんだけど、これだけ言われるってことはやっぱり、俺が悪いってことなのか」
 持ち味だった強靭な精神力が、崩れ落ちた瞬間である。

(了)

 

 この作は第三弾に収められる可能性があります

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