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戸松有葉の ショートショート1001作を目指す旅

ショートショートとAmazon電子書籍販売・配布の活動をしています。

959 スイーツプリンス

 情報が出始めると、女性オタクは怒りさえ持って叩いた。このスイーツプリンスプロジェクトの資本は、これまで彼女らが既存コンテンツに「貢いで」きたものだ。その金で次は何をしてくれるのかと期待していたら、とんだ期待外れだったのである。
 直接のターゲットではない男性オタクも反応した。馬鹿にするという意味で。企画側へだけでなく、「女オタは金落とすんだろ、これも金出せよ(笑)」と、わざわざ煽る者も現れる始末。
 もう幾年も前から常識となっていることだが、サブカル・オタク産業では、男性客よりも女性客のほうがお金を落としてくれやすい。口うるさいが金を出さない男性客を相手するより、女性客を狙ったほうが儲けやすいということだ。
 だからこそ女性向けオタクコンテンツは既に盛況であるし、新規にも考えられている。
 とはいえ、業界の供給側・クリエイター側に、女性が多いか、女性客のニーズに精通している者が多いかといえば、話は別だ。長年男性中心だったオタク系分野では、致し方ない面もある。
 こうした歪んだ環境のなか、そのコンテンツ――スイーツプリンスプロジェクトは始動することになったのだった。

「女性が好きなものなら、動物かスイーツだろう」
「それらとアイドルや王子様を合わせれば」
「うむ。女児向けも同時にいけそうだ」

 末端を抜きにすれば男性ばかりのスタッフと資本により、内容が固められていく。
 擬人化キャラクターのネタは出尽くした感あるが、定番化したともいえ、それで行くこととなった。各種スイーツをイケメン化。好きなスイーツプリンスを集めて選んで、会話や冒険を行なう、ゲームやアニメを展開する。
 なおプリンスと言っているが、王子設定などないので、「こう言っておけば女にはいいんだろう」と、安易にネーミングされたものだった。
 そうした姿勢からもわかる通り、何も考えていないか、余計なことしか考えずに作られている。ゲームシステムもバランスも、キャラクターもストーリーも、見事に狂っていた。
 人気声優やイラストレイターを起用するといったことはしている。だがそれも、ターゲット層やそれぞれのファンからは「無駄遣い」「経歴汚し」と叩かれる材料になるだけだった。
 ゲーム版は、プレイヤー(女性仮定)がスイーツプリンスたちと共に、何故か何かよくわからないものと戦う。好感度の上がったスイーツプリンスとのイベントこそ発生するが、それだけで、最後の敵を倒すとスタッフロールのみのエンディングを迎えてしまうので、何を楽しむためのゲームなのかわからない。
 アニメ版では主人公が男性キャラ――スイーツプリンスではない普通の人間――で、いわばボーイズラブ路線を取っていた。しかし、スイーツネタとして「僕のクリームを」といった下ネタがあるかといえばそれすら考えられておらず、かといって健全友情物語で客側が勝手にボーイズラブ連想できるよう描かれているかといえば、それもなかった。スイーツプリンスとの学園生活が、特に何の説明もなく、ドラマもなく、流れるだけだった。
 絶対に売れるはずがないと、男女オタクからは例外なく酷評。

 しかし――、ウケた!

 オタクからではない。男性にも女性にも、更には子供から大人まで幅広く、世間一般にウケたのだ。
 アニメブルーレイの通販サイトレビューでは、最初アニメオタクの付けた低評価を覆す大量の高評価が付き、社会現象と呼ばれるほど売れて流行。主題歌も、年末の国民的番組で歌われることは確実視されている。
 結局何がウケたのか。実は最も酷評された部分と被っていた。
 あるスイーツプリンスはその特徴から、自分の腹へ手刀を入れ込んであんこを抉り出し、与えてくる。なおこの際、口からもあんこが少し漏れている。グロい。
 またあるスイーツプリンスは、カレーの擬人化だった。カレーはスイーツではない。だが甘口だからスイーツに含まれるという理屈でスイーツプリンスだと言い張っている。
 完全にギャグ。しかしギャグではなくこんなことをやられたから、オタクは期待を裏切られたと思ったのだ。
 このギャグでしかないものを、とある有名人が「面白い」とネットで情報発信したことを契機に、流行った。一度火がつけば、後は「流行っているものに飛びつく人が現れてもっと流行る」現象で一気に拡大する。オタク産業でも同じ現象で流行拡大するが、場が世間一般ともなれば、その規模は巨大だ。
 世間の流行とは、女性オタクよりちょろく、スイーツより甘いようだ。

(了)

 

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