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戸松有葉の ショートショート1001作を目指す旅

ショートショートとAmazon電子書籍販売・配布の活動をしています。

960 子供の選択

 綺麗なショーケース。女の子は呆けそうになりながら、そのショーケースを眺めていた。無論、ショーケースそのものを綺麗だからと眺めているのではない。
 陳列されている、数々のスイーツに目を奪われているのだ。

「欲しいの、選びなさい」

 女の子は、同行していた母親から不意にそう言われ、天にも昇る気持ちになった。大好きなスイーツを、こんな本格的なお店――女の子からすれば本格的に見える店で、買ってもらえるのだ。
 またとないチャンス。
 しかしである。そう簡単なことではないことも、女の子にはわかっていた。
 いつまでもショーケースを眺めてはいられない。魅惑的な光景だが、女の子に与えられた時間は限られているからだ。早急に欲しいスイーツを選択しなければ、悲劇が待っている。
 この母親は、あまり時間をかけてしまうと、我が子の意思など無視して「一番安いもの」を買う。そういう女だ。デフレ時代に染み付いた、思考停止の悪癖。
 女の子としては、それだけは避けたい。一番安いスイーツでも、決して嫌いではないが、食べたことがあるものであるし、他に欲しいスイーツはいくらでもある。
 選択は難しいが、少し候補は絞られていた。先の、「食べたことのあるものは除外する」といった方法によって。だがまだまだ一つには絞れない。選べていない。
 ここで、全部欲しいだの、二つまでしか絞れなかったから二つ欲しいだのと、言い出すことはできない。それをすれば、すべて買ってくれなくなる。そして再チャレンジを絶対に許してくれない。この母親はそういうタイプだ。生まれてから数年の短い付き合いだが、女の子は熟知している。
 しくじることはできない。きちんと選ぶ必要がある。
 さて、何を基準に買うスイーツを選ぶべきか。
 欲しいのを選べとされていることから、値段を理由に反故されることはない……と考えるのは早計だ。この母親は、いや大人とは、約束を破ることに定評のある生き物だからだ。
 例えばホールケーキを買ってくれるのか? ここにあるものから選べとされているのだから、買うのが筋である。しかし絶対この選択では拒否される。では、そこまで極端でなくとも、やはり高価なスイーツならどうか。
 そこが微妙過ぎる。判断のしようがない。どこまでが許容範囲なのか、女の子ではわからない。
 もし駄目だった場合、やはり再チャレンジなど許されず、時間をかけてしまったからと勝手に安いのを買われるか、何も買ってくれなくなるか、だ。
 再チャレンジなどという淡い期待を持ってはいけない。この一度の勝負で、確実に欲しいスイーツをゲットしなければならない。
 女の子は時間がない中、考えを整理する。まず、ホールケーキのような規格外の要求は外す。次に、反故される危険のある、高価なスイーツは上から順に候補の優先順位を下げる。そして、食べたことのあるもの――一番安い、母親が買いそうなスイーツもそこに含まれている――も候補から外す。そうして残ったものから、一つを、たった一つを、選ぶ……。

 女の子は帰宅後、二重の涙を流していた。
 全くの考慮外だった。
 日持ちするかどうかなど考えてもみなかった。これを考慮しなかったがゆえに、現在、せっかく買ってもらったスイーツは母の腹の中に収まっている。捨てるのは勿体ないからだ。
 そして女の子は、悩み過ぎた結果、お腹が痛くなり、スイーツを食べられそうになかった。

(了)

 

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女の子は涙でキラキラです

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