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戸松有葉の ショートショート1001作を目指す旅

ショートショートとAmazon電子書籍販売・配布の活動をしています。

962 俺を殺した奴が次の俺

 勝ったほうが正義だというほど世は単純ではないが、負けたほうが正義を主張できないのは確かだ。
 この意味で、俺は常に正義を主張できる側にいられた。常に勝者だったからだ。
 何故なのか。運が良かったからでも、才覚を持って生まれたからでもない。俺の特異な性質・能力が原因だ。
 初めてそれを知ったのは、無力な幼い子供時代だった。
 辺ぴな村で、野盗も襲いやすかったのだろう。たいした富はないが村民が困らないだけの備蓄はあった。そして襲っても都の騎士団が追ってくるには時間がかかるのだし、税も少ないため軽視されるかもしれない。
 ともかく子供の俺は、幾人もの村人たちと共に、野盗に襲われて命を落とした。
 命を落とした。殺された。だが俺は、こうしてその後を語れるように、生きていた。
 状況を掴むことは容易かった。信じがたいという点を除けば、子供の頭でも理解できる。
 俺は殺された直後、俺を殺した野盗の男になっていたのだ。
 記憶は引き継いでいる。死んだ俺の記憶は完全に継いでいた。後でわかったことだが、この記憶とは、知識だけでなく技能も含まれていた。そして、魂――というものがあるかは知らないが――が移った先である野盗の男の記憶も同時に持っていた。
 だから野盗仲間と話も合わせやすかったし、すぐに第二の人生を歩むことが可能になった。
 とはいえ、自分や村人を殺され、その無残な死体も脳裏に焼き付いている中で、野盗をこのまま続けて行く気など起こるはずもない。
 俺は裏切った。裏切りなど怖くも何ともない、計画もなく仲間たちに襲いかかった。あっさり返り討ちに遭ったが、予想通り、俺を殺した奴が、次の俺になっていた。
 次の裏切りは計画性を持たせた。野盗の頭に殺されるよう仕向けたのだ。そうして新たな頭となった俺は、皆を騙し、騎士団に捕まるよう犯行を行なった。これで一先ずの復讐は終わりだ。
 当然俺も死刑の一員に含まれるわけだが、死刑は誰かが殺してくれなければ成されない。つまり俺は、今度は犯罪者ではない者の人生を生きることとなった。
 日の下を歩ける人生だ。ただ、こんな性質を持っておきながら、このまま終わろうとは思わない。
 二点、気付くことがあった。
 まず、俺は永久に死なないことができる。殺されればいいのだ。歳を取ろうとも、若い奴に殺されれば若くなれる。一方、永久に生きる苦しみとは無縁だろう。自殺を試してみることはできないのでわからないが、法則からしておそらく死ねる。殺した奴が死んでいることになるのだから。
 もう一点。単純化して考えれば、戦って死んだ場合、自分が殺されるわけだから、自分より強い者になれている。繰り返していけば、俺はどんどん強くなれる。敢えて強者に挑めば、より効率的だ。
 そうして俺はこの性質を存分に活かして生きたのだが、気になることもあった。次の自分に移るとはいえ、前の自分に愛着がないわけでもない。その死体を毎回見る羽目になり、更に誰かによって死体をぞんざいに扱われることもあるのだ。
 そこで俺は、「死体をいじるのは神への冒涜」という正義を広めることにした。最初こそ聞く耳を持つ者はいなかったが、俺はどんどん強くなり、そして正義を主張できる立場にあり続けることで、この正義を広めることに成功した。
 俺はいつしか、この世の誰よりも強く、また功績を残した、英雄となっていた。
 しかし――。どんな英雄も病には勝てない。俺はその体でまだ若かったが、ある地方の謎の奇病にかかり、衰弱していった。世界最高の医者を呼ぼうにも、世界最高の医者は俺だ。その俺も原因や治療法がわからない。
 誰かが暗殺でもしてくれればいいのだが、英雄の警護は完璧で、近くに恨みを持つ者もおらず、そんなうまい話はない。
 為す術なく死を迎えてしまう。俺の人生は今度こそ本当に終わった……と思ったのだが、まだ意識があった。
 つまり誰かに殺されたのだ。暗殺などされていないのに。俺も混乱したが、やがて俺が何者かを理解することで、真相がわかる。犯人は寄生虫だった。これが謎の奇病の原因だったのだ。
 ならば、この寄生虫を誰かが殺してくれればいい。という希望は、持つだけ無駄だ。謎の奇病なのだから寄生虫の存在を誰も知らず、且つ俺の残した倫理観により死体は解剖されることなく焼かれる……。
 遺体と共に焼かれ死ねば、まだ可能性はあるが、すでに死んでいる宿主の中でどれだけ生きられるのかわからない。
 まさかこのまま、英雄として死ぬこともなく、誰にも認識されず寄生虫として死ぬのか。
 ああ……。

(了)

 

 第三弾っていつ出せるだろう…

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