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戸松有葉の ショートショート1001作を目指す旅

ショートショートとAmazon電子書籍販売・配布の活動をしています。

967 恋人との過ごし方

 彼には、恋愛感情もあれば、性欲もある。それらが薄く標準以下という事実もない。
 しかしどうしてもわからないことがあった。

 休日は恋人と過ごすのが当たり前、という常識。

 彼には現在、同じ大学で付き合っている彼女もいるが、その彼女からもはっきり聞いた見解だった。休日に会わない意味がわからないとまで言っていた。
 彼女には、脳機能障碍もなければ、虐待を受けた経験もなく、その他大勢の人々と同様の感性だと判明もしている。
 彼は生まれつき、現在周囲にいる者たち――むろん自身の恋人も含む――とは、様々に性質が違った。生まれ育った環境も違う。それを言い出せば誰でも同一ではないのだが、違いが大きかったということだ。
 それでも彼は周囲とある程度以上はうまくやってこられた。それこそ恋人ができるほどには。
 理論で理解すれば、他人に合わせることが可能だからだ。
 彼と事情は異なっていても、同じようにして社会に適応しようという者は少なくない。マイノリティへの支援や寛容は、時代と共に進んでいる面もあるが、充分とは言い難く、それどころか昨今は内向き思想の強まりで逆行してもいる。自分の身は自分で守るしかない。
 彼はそれができている存在だ。
 だが今回の、「休日は恋人と過ごすもの」はまだ理解できていない。
 好意を持っている者同士ならば、例えば他愛ない会話だけでも充分楽しいはずだ。それならラ◯ンや電話でできる。わざわざ休日に直接会う必要がない。
 性欲を満たす目的ならわかるが、彼女にまだその気がない。つまり休日に一緒に過ごすことは、必ずしも性欲を満たす目的とは限らないのだ。
 しかしながら彼も、拒絶していたのでは仲が進展しないことはわかる。それでは付き合っている意味がないのかもしれない。更に、このまま放っておけば、別れるに至るのは必至だ。それは今後を考えて避けておきたい。
 彼はやむなく、理解が及ばないまま、「休日は恋人と過ごす」を実践することにした。実践していれば何か見えてくるだろうという期待も込めながら。

 幾度か休日のデート、あるいはデートでもなく会うことを実践してみた結果、彼はフラれることになった。実践しなかった場合とどちらが早く別れに至ったかは検証しようもないが、兎も角駄目だったわけだ。
 むろん、未だ彼は「休日に恋人は会う」の感覚を理論的にも理解していない。
 残念だが諦めるしかない。彼は何も、彼女個人に執着しようという気はないのだから、受け入れられはする。
 しかしもう別れるのだからと、これまで訊けなかったことは訊いてみることにした。
「なんで付き合っていたら休日に会わないといけないんだ? 俺はそれが全然わからなかった」
 彼女はため息を吐くと、困ったような笑顔で、
「わかってないって私もわかったから、別れたほうがいいと思って。私のほうが疑問で訊いてみたいんだけど、どうして会わなくていいと思うの? あなたってほんと、宇宙人だよね」

 彼の目の色が変わった瞬間だった。比喩ではない。

「すまない。これだけは放置できない決まりなんだ。俺の正体がバレた相手には、消えてもらう」
 擬態していた人間の姿から、本来の姿に戻った彼は――。

(了)

 

 

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