戸松有葉の ショートショート1001作を目指す旅

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977 自称ぼっちと海水浴

 コミュニケーション障碍もなければ、特別人間嫌いでもない。彼女はぼっちの道を選んだだけである。
 選んだというと、「本当は友達が欲しいのに出来なかったから強がっている」と思われるかもしれない。しかしそれは誤解だ。だいたい半分くらいは誤解だ。
 彼女は、高校に上がって少し過ぎた辺りから、ダウナー系少女になった。同級生らには、これまでそうでもなかったのに、アクティブになった者もいる。思春期特有の情緒不安定さと、環境の変化が、人間をそうさせるようだ。

(はあ、夏休みの予定、宿題しかない)
 既に夏休みに入っており、彼女は家でゴロゴロしていた。唯一の予定である宿題も、別にしていない。
 そんな時、クラスメイトから連絡があった。
(海水浴だと)
 クラスの女子半分は集まるという、海水浴への誘いだった。連絡してきた相手に苦手意識はない。が、こいつは、クラス内ヒエラルキートップに君臣する女王の、親しい友人。おそらく連絡役として使わされているのだろう。
(断りたいが……)
 ダウナー系キャラに慣れた彼女は、正直嫌だった。しかし後が怖い。もし夏休み明けからいじめでも始まったら……。そんなリスクを冒してまで断るくらいならば、大勢に紛れて潜み、ひっそりぼっちしていたほうがいい。
 やむなく彼女は、行くとの返信をした。
(しかし困ったな)
 返信をしてから、彼女は気付いてしまう。
 彼女は、泳げない。泳げないことが問題なのではない。泳げないのに泳げると思われていることが問題なのだ。
 まだダウナー系キャラが固まっておらず、クラス内ヒエラルキーも固まっていなかった頃、彼女はクラスメイトらに幼少期の話をしていた。当時は海辺の田舎町に住んでおり、海に入っては水遊びをしていた……そんな他愛のない話だ。
 それがいけなかった。「じゃあ泳ぐの得意なんだ」屈託なくそう言われてしまった。泳げないと答えたのだが、「水泳部のように得意ではない」レベルに受け止められて、カナヅチだとは思われなかった。先入観の恐ろしさである。
 彼女は面倒だったので、誤解を与えたままにしていた。今でも覚えている者がいれば、マズイかもしれない。
 そもそも何故海辺の住人だと泳げると思うのか、と彼女は今になって不満を持つ。
 事実、海辺の住人で泳げない人など珍しくない。
 海水は浮きやすい利点あるものの、飲んでしまえば辛く、目を開ければ痛く、深さが不規則なため危険・不安で、クラゲにも刺され、おまけに波まである。泳ぎの練習には適さない場所だ。
 泳法はあくまでも練習で獲得するスキルだ。だから泳げるかは、海辺の住んでいたかではなく、プール設備や指導する人がいたかに左右される。
リア充どもは何故そんなこともわからないのか。コミュ力さえあればこの世では正義なのか)
 過去話をしていた時期では彼女と他の子に差がなかったことや、海水浴に誘われている時点で自分もリア充っぽいことなど忘れて、彼女は一人、苛立ちと落胆を覚えていた。

 乗り気ではないまま、海水浴当日を迎える。
(暑いな。なんでこんな日に海に行きたがるんだ)
 幼い日々、夏は暑いからと海へ遊びに行っていたことは、記憶から抹消された。
(水着に日焼け止め、電車代、余計な出費だ)
 なお水着は持っていたが新調した。
 集合場所の駅で数人のクラスメイトらを待ち、いざ海水浴場へ。

(いや、お前らこれ、冷静に考えろ。楽しいか?)
 スイカ割りや砂風呂、ガチのビーチバレーなど、リアリティのないお約束な遊びが展開されている。
(女子高生がアニメやアイドル動画でそれをやるのは、視聴者を楽しませるためだ。お前ら自身は楽しくないだろ。何を楽しそうにはしゃいでいるんだ)
 しかも、ひっそり潜んでいたかったのに、誘われてしまって混ざるしかなくなる。
(疲れるだけだっつーの)
 だが幸い、そのおかげで泳げないことの心配は杞憂に終わった。地獄の海水浴唯一の救いだ。

(はあ、散々な一日だった)
 帰りの電車で彼女は眠りに落ちてしまう。
 行きはうるさかったクラスメイトも帰りは静かだ。
(でもまあ、気を遣ってのことだとしても、親しくしてないのに友達扱いしてくれる奴らと過ごすのは、悪くない気分か……)
 と思えたのも、眠りから覚めた瞬間までだった。
 乗り過ごした。一緒の駅で降りるクラスメイトらの姿などありはしない。
(ちくしょう、友情とか少しでも勘違いした私が馬鹿だった! いや、そうじゃない。これが当然だ。私に友達はいないのだから)
 やはりぼっち生活でいいとの結論を得て、駅員に乗り過ごした旨の相談をする。
 はしゃぎ過ぎた結果、疲れて熟睡しており、いくら起こしても起きず、その後何度も連絡されていたと知るのは、もう少し後の話。

(了)

 

 

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