戸松有葉の ショートショート1001作を目指す旅

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980 異世界転生したのににゃんだよ!

 吾輩は猫である。パロディではない。
 いやこの冒頭な時点でパロディか。……まあどっちでもいい。とにかく、くそったれな状況だ。あのポンコツ女神め。

 無能と怠惰を絵に描いたような就活生の俺は、人手不足で誰でもいいから来てくれと泣きつく企業が多い中でも就職先が決まらず、「トラックに轢かれたら異世界行けないかな」などと現実逃避していた。
 そんな事故は起こらなかったが、突然死という形で死に、異世界転生の機会を女神から与えられる奇跡は起きた。
 転生先は夢にまで見た剣と魔法のファンタジー世界だという。更にはお約束の、チート級のアイテムやスキルまで付けてくれるのだから、断るわけがない。
 俺が二つ返事で承諾し、必ずや異世界で魔王を倒してみせると誓いながら旅立った時、その声を聞いた。
「あ、にゃんこと間違えた」
 にゃんだと~っ!

 さて、猫である。心踊らせてくれる、中世ヨーロッパ風の、獣人やらエルフやらもいる、剣と魔法のファンタジー世界に、猫が一匹。
 放り出されたのは、駆け出し冒険者が集う街っぽいが、俺は駆け出しですらない。何度でも言うが、猫だ。
 女神は明言こそしなかったが、異世界ではハーレム築けるくらいモテるらしい。しかしハーレム築けても、相手猫じゃん。猫耳娘でもなく、純粋に猫。猫は好きだがそんなハーレム要らない。
 はあ。途方に暮れていても仕方ない。猫ではあるが、まずはテンプレ通り冒険者ギルドへ行こう。

 幸い扉は開いていたので中に入ることができた。猫は扉開けたりするが、この扉重そうだから自力じゃ多分無理。
 猫が入り込んでも、誰も気にしないようだ。
 荒くれ者風のおっさんから、魔法使い風の少女まで、様々な人がいる。もちろんギルド職員らしき人たちも。酒場でもあるようで、喧騒が激しい。猫など気にしないのは当然だろう。
 掲示板を見付けた。依頼の張り紙が隙間なく並んでいる。
 ふむふむ、種類は豊富だが、冒険初心者向けのクエストばかりのようだ。俺でも出来そうな仕事はあるかな。探していると、良さそうな案件を見付けられた。迷い猫の捜索。猫の俺にぴったりじゃないか。きっと猫のネットワーク――にゃっとわーくを駆使すれば……って、俺猫だけど猫語わからないや。
 迷い猫クエスト以外にも出来そうなクエストは見付けたが、あくまでも人間ならば駆け出し冒険者でも出来そうという意味であって、猫の俺では出来そうにない。
 そして決定的なことに気付かざるを得なかった。クエストを受けるには、まずギルドで冒険者登録をしなければならない。
 転生前のスキル特典で、異世界語の読み書きはできる。しかし、読むのは出来ても、猫の手では書けそうにない。ついでに話すこともできない。精一杯言葉を話そうとして出てきた声は、
「にゃあ」
 だった。まさに猫。
 もし仮に書けたり話せたりしても、きっと猫は受け付けられないだろう。下手したら新種のモンスターと思われて狩られかねない。
 俺は静かにギルドを後にした。別に静かにしようとしなくても猫の足音なんて静かだけどな!

 冒険者の夢はあっさり破れた。まあ、幸いにも金には困らない。女神から貰ったアイテムを売れば大金になるらし……って、猫だから売れないじゃん! 誰に売るんだよ。猫に小判とはまさにこのことか。
 洒落になってないぞ。異世界ファンタジーを堪能するどころか、生きていくことが無理ゲーなんじゃ。
 なんてことを思っていたが、それでもまだ甘かった。
「いたぞ、あそこだ!」
 柄の悪そうな男が、俺のほうを指して仲間を呼びながら、駆け寄ってきたのだ。野良猫一匹放置できない世界観には思えなかったが、俺は今を生きることさえ許されないのか?
 チート級のアイテムとスキルは豊富だ。戦闘なら負けはしない……はずが、やはり猫だから無駄。魔法は人語を話せないと行使できず、武具は人間用なので装備できない。
 やむなく俺は剣を呼び出し、口で咥えて構える。お、格好いいかも。……顎痛え、こんな非力さで攻撃なんて出来ない。せめて顎の力強化しておいて!

 俺は逃げた。必死に逃げた。猫だけあって逃げるのは得意だ。
 しかしこれからどうすれば。嘆いても恨んでも仕方ない。猫としての生き方を学び、生きていく他ないようだ。
 そう考えると、気分が楽になってきた。この世界は魔王の脅威あるものの、俺は猫であって女神の使いとして役割果たさないから、目を付けられる心配もない。気ままに旅でもすればいい。猫っていい人生もとい、にゃん生かもしれない。
 ……前向きになったことが、油断に繋がった。いきなり人に捕まってしまったのだ。
 おのれ、離せ、俺をどうする気だ!
「やっと捕まえた。迷い猫のクエストも楽じゃないな」

(了)

 

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