戸松有葉の ショートショート1001作を目指す旅

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1001 財布代わりの男なら……

 

 憤まんやる方ない――。
 博士は若い頃から、あることに憤りを感じていた。
 男女、特にカップルが会計する際、男が女の分も払う風潮だ。カップルが特にそうではあるが、そんな関係ですらないのに男が払うものという空気もある。
 もはや男は女の財布代わり。
 あまりに意味不明だ。博士が男だからか、余計にこの慣習を由々しき事態だと捉えていた。
 許せないのは、そうした慣習そのものではない。単なる慣習であるならば、多くの人が深く考えず従うのも自然ではあり、博士も怒りはしない。
 彼ら彼女らは、しっかり自覚した上で、こうした行為に及んでいる。だから博士は許せないのだ。
 女には、男が女の分も払うのは当然だと思うばかりか、必要以上に女に金を使って「男を見せろ」と言ってのける輩までいる。そんな女は決して珍しくない。
 もちろんそこまで傲慢ではなく、例えば会計の際、支払う素振りを見せる女もいる。だがそれは素振りであって、最初から払う気がないのだから、結局は同じことだ。
 払わせる女も女なら、払う男も男だ。
 これで甲斐性ある男だとでも思っているのか。女にへつらい、見捨てられないため貢いでいる情けない男なだけではないか。
 博士の怒りと社会変革への意欲は、幾年も衰えることなく続き、ついにある発明をもたらした。
 着想から幾年も経っている。時代は常に変化するものだ。実際世の中は、発明に没頭する最中、劇的に変化していた。
 男女でいえば、依然収入格差はあるものの、女性が社会進出するのが当たり前になり、例えば自動車は男に乗せてもらうものという発想は過去のものとなっていた。
 それでもなお、この、女が男を財布代わりにするという悪習は残り続けていた。
 博士は躊躇うことなく、発明品を使った――。
「ははは! 様を見ろ!」
 財布代わり男を、財布そのものに変えた。比喩ではなく、本当に財布だ。人間が財布になってしまったのだった。
「元から財布代わりなのだから、女も困らないはずだ」
 そう理屈を並べ、しかし、
「まあ、財布の中身はないけどな!」
 あくまでも「財布」であって、お金に変わったわけではない。
 してやったり、の博士。
 対して女たちは、財布に成り果てた男たちを見て、これまでの自分を悔い……ることは別になく、今度は財布を男代わりに使った。意外と事足りるらしい。

(了)