703 着信音を鳴いた
※一旦ボツにしたものからサルベージしてきたものです。
※「小説家になろう」時代に、はてなユーザでもある、くにさきたすくさんの二次創作フリー宣言を受けて創作したものです。
【タイトル】
着信音を鳴いた
【本文】
着信音が鳴った。
正確には、着信音を鳴いた。
「メールが来やがりました」と。
「なあケータイ子、敬語が変だって何度言えばわかるんだ」
「ご主人様も、私をケータイ子などと呼ぶなと何度言えばわかりやがりますか」
不良品を掴まされたわけではないが、何かと面倒で、俺は便利さを感じたことがない。
そもそも、ケータイと呼んでいるが、人型であるため携帯などできはしない。
自律歩行で後を付いてくる格好だ。
届いたメールを読み上げてもらうことは簡単だが、ケータイ子の変な口調が失われた読み方になる――正確にメール本文を読む――ので、それはそれで違和感を覚える。
メールは自分で読むことにした。
「なあケータイ子、乳首を押したらメールが読めるとか、そんな機能はないのか」
「あるわけないです」
「サービス不足しているよなあ」
「いいから早く額に表示されるメールを読みやがれです」
メールは友人からの他愛もないものだった。
返信する際も、文字を打つのに乳首を押したりはしないので、どうでもいいかと返信しなかった。
今日も満員電車に揺られて通勤せねばならない。
ケータイ子らのおかげで余計満員になっている。
(ほんとに狭いなぁ)
そう毎日と同じ不満を持っていると、ケータイ子が突如、ぷるぷると震えだした。
「……うーん」
見方によっては可哀想だ。寒さや謎の奇病で震えているようでもあるから。
実際はただのマナーモードなのだが。
満員電車からようやく開放される。
マナーモードを解除してから話しかけた。ちなみにマナーモード設定でも乳首を(略
「はあ、今日も疲れるだろうなあ」
「何言ってやがりますか。私の維持費のためにも、しっかり働きやがれです」
何がいいのか不明な、ケータイの人型化。
しかしたった一つだけ、はっきりとした利点があった。
俺はケータイ子がちょこちょこと後を付いてくる様子を見て、微笑む。
ケータイの忘れ物がなくなった。
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