戸松有葉の ショートショート1001作を目指す旅

ショートショートとAmazon電子書籍Kindle本販売の活動をしています。

1046 尻取りなので悪意なんて

「ねぇ美亜、中途半端に時間余ってるから、尻取りでもしない?」

「え? まあ、いいけど。(スマホでもいじっていればいいのに、尻取りするの? っていうか私、尻取りなんて小さな頃以来したことないかも)」

「じゃああたしから。あいうえおの『あ』で始めるね」

「うん。(尻取りの『り』からじゃないんだ。別に決まってないから不自然でもないか)」

「『あばずれ』」

「…………」

「ほら、続けて」

「(他意はないよね。あいうえおの『あ』からはおかしくないし、『れ』から始まる言葉は少し難しいからゲーム勝つためにやってきたんだろうし。)うーんと、れ、れ、『レア』!」

「『あばずれ』」

「待って。間髪入れずに言ってきたけど、それはさっき香菜が言ったじゃない」

「同じの駄目なルール? あたしのやってきた尻取りは同じのでもよかったんだけど。地方で違うのかな」

「(同じのが許される地方あるの? それだと、延々同じ言葉言い合ってしまうんじゃ。っていうか、香菜と私、同じ地方出身じゃないの)」

「わかったわ。じゃあやり直しで。『あ』、ね。『厚かましい』」

「…………」

「…………」

「うん。『い』だから、『嫌らしい』」

「『意地汚い』」

「『印象操作』」

「『サトウ』。あ、シュガーの砂糖じゃなくて、名字の『佐藤』ね」

「(尻取りなんだからどっちでも一緒じゃないの? ってうか、人名もありなの? っていうか、佐藤って私たちが昔色々あったあの佐藤くんのこと? まだ根に持ってるの?)」

「どうしたの美亜? まだ時間あるわよ、続けましょう」

「うん。『ウドの大木』」

「……佐藤くん可哀想、そんなこと思われていたのね」

「尻取りだから! 佐藤くん関係ないから! 早く、次は『く』」

「『糞食らえ』」

「『えんがちょ』」

「『チョップ』」

「待って。これ尻取りだから」

「あ、『ヨ』からだった?」

「違う、そこじゃない。あたしにチョップかましてきたところ!」

「ごめんごめん、つい。ほら、言葉と一緒に出るものじゃない」

「(出ない! 今度やったら問答無用でボコってやるわ)。『プ』だったわね、『プロレス』」

「す……『好きになったものは仕方ないじゃない』」

「文章はナシ! しかも覚えある! 確かにあたしが佐藤くん取ったみたいになったけど、あの時はもうあんたとは終わってたの」

「『の』から?」

「(これを尻取りで通す気? わかったわよ)。『の』からでいいわ」

「『惚気』」

「(何とか過去と繋がらない方向に持っていかないと)。ケーキ」

「あそこのケーキあたしと食べる約束してたのに、図々しい女があたしの分を食べちゃったのよね」

「あんなの分のケーキ食べた人なんているの? 少なくとも私は自分のお金でケーキ食べたことしかない」

「『き』だったわね。『キス』」

「(魚のほうだと思っておこう)。『スズキ』」

「鈴木くんは……」

「魚のスズキだから!」

「そう。き、き……『絹』」

「(あれ、普通だ)。ぬ……難しい、何あるかな」

「『脱がす』とか。あなた強引にやるって聞いたわ」

「そんなデマどこで聞いたのよ! 脱ぐの待たないで脱がすだけだから強引に脱がしてるわけじゃな……」

「…………」

「あー、えーと、『沼』!」

「抜け出せないわよね」

「ただの尻取りだから、連想はしなくていいから」

「『ま』ね。『まだ話終わってないだろ、おい待てよ、美亜!』」

「しつこいのよ、この『あばずれ女』!」

 

(了)

 

 

 こちらから抜粋