1046 尻取りなので悪意なんて
「ねぇ美亜、中途半端に時間余ってるから、尻取りでもしない?」
「え? まあ、いいけど。(スマホでもいじっていればいいのに、尻取りするの? っていうか私、尻取りなんて小さな頃以来したことないかも)」
「じゃああたしから。あいうえおの『あ』で始めるね」
「うん。(尻取りの『り』からじゃないんだ。別に決まってないから不自然でもないか)」
「『あばずれ』」
「…………」
「ほら、続けて」
「(他意はないよね。あいうえおの『あ』からはおかしくないし、『れ』から始まる言葉は少し難しいからゲーム勝つためにやってきたんだろうし。)うーんと、れ、れ、『レア』!」
「『あばずれ』」
「待って。間髪入れずに言ってきたけど、それはさっき香菜が言ったじゃない」
「同じの駄目なルール? あたしのやってきた尻取りは同じのでもよかったんだけど。地方で違うのかな」
「(同じのが許される地方あるの? それだと、延々同じ言葉言い合ってしまうんじゃ。っていうか、香菜と私、同じ地方出身じゃないの)」
「わかったわ。じゃあやり直しで。『あ』、ね。『厚かましい』」
「…………」
「…………」
「うん。『い』だから、『嫌らしい』」
「『意地汚い』」
「『印象操作』」
「『サトウ』。あ、シュガーの砂糖じゃなくて、名字の『佐藤』ね」
「(尻取りなんだからどっちでも一緒じゃないの? ってうか、人名もありなの? っていうか、佐藤って私たちが昔色々あったあの佐藤くんのこと? まだ根に持ってるの?)」
「どうしたの美亜? まだ時間あるわよ、続けましょう」
「うん。『ウドの大木』」
「……佐藤くん可哀想、そんなこと思われていたのね」
「尻取りだから! 佐藤くん関係ないから! 早く、次は『く』」
「『糞食らえ』」
「『えんがちょ』」
「『チョップ』」
「待って。これ尻取りだから」
「あ、『ヨ』からだった?」
「違う、そこじゃない。あたしにチョップかましてきたところ!」
「ごめんごめん、つい。ほら、言葉と一緒に出るものじゃない」
「(出ない! 今度やったら問答無用でボコってやるわ)。『プ』だったわね、『プロレス』」
「す……『好きになったものは仕方ないじゃない』」
「文章はナシ! しかも覚えある! 確かにあたしが佐藤くん取ったみたいになったけど、あの時はもうあんたとは終わってたの」
「『の』から?」
「(これを尻取りで通す気? わかったわよ)。『の』からでいいわ」
「『惚気』」
「(何とか過去と繋がらない方向に持っていかないと)。ケーキ」
「あそこのケーキあたしと食べる約束してたのに、図々しい女があたしの分を食べちゃったのよね」
「あんなの分のケーキ食べた人なんているの? 少なくとも私は自分のお金でケーキ食べたことしかない」
「『き』だったわね。『キス』」
「(魚のほうだと思っておこう)。『スズキ』」
「鈴木くんは……」
「魚のスズキだから!」
「そう。き、き……『絹』」
「(あれ、普通だ)。ぬ……難しい、何あるかな」
「『脱がす』とか。あなた強引にやるって聞いたわ」
「そんなデマどこで聞いたのよ! 脱ぐの待たないで脱がすだけだから強引に脱がしてるわけじゃな……」
「…………」
「あー、えーと、『沼』!」
「抜け出せないわよね」
「ただの尻取りだから、連想はしなくていいから」
「『ま』ね。『まだ話終わってないだろ、おい待てよ、美亜!』」
「しつこいのよ、この『あばずれ女』!」
(了)
こちらから抜粋